『シラノ・ド・ベルジュラック』

2024年09月10日

1.タイトル

『シラノ・ド・ベルジュラック』

 

2.書店名(出版社)

岩波書店(岩波文庫)

 

3.発行年月日

1951年7月5日(岩波文庫 初版発行) ※1983年12月16日に改版が発行されています。

 

4.著者の略歴

 

エドモン・ロスタン(Edmond Rostand, 1868–1918) フランスの詩人、劇作家。南仏マルセイユの裕福で教養ある家庭に生まれる。自然主義の演劇が主流となっていた19世紀末のフランスにおいて、華麗な韻文を用いたロマン主義的な戯曲を発表し、熱狂的な支持を集めました。1897年初演の本作『シラノ・ド・ベルジュラック』の大成功により世界的名声を確立し、1901年には33歳という当時の最年少記録でアカデミー・フランセーズ会員に選出されました。

 

5.訳者

鈴木信太郎(すずき しんたろう, 1895–1970)本作は恩師である辰野隆(たつの ゆたか)との共訳です。 日本のフランス文学者。東京大学教授を歴任。ステファヌ・マラルメやフランソワ・ヴィヨンをはじめとするフランス詩の研究と翻訳で多大な功績を残し、日本におけるフランス文学研究の基礎を築いた一人です。言葉の響きを大切にした、流麗で格調高い日本語訳に定評があります。

 

6.書評(著者が言いたかったことのまとめを含む)

【著者が言いたかったこと】 ロスタンが本作を通して最も伝えたかったのは、「心意気(パナッシュ:panache)」の美学と、外見の美醜を超越した「魂の美しさ」の尊さです。 権力や世間の迎合を徹底的に拒絶し、己の信念を曲げない。そして、無償の愛のために自己犠牲すら厭わない。著者はシラノという不器用な男の生き様を通して、どれほど損な役回りであっても妥協せずに誇り高く生き抜く人間の気高さを描き出しました。

 

【書評】 本作は、世界中の舞台で愛され続けるネオ・ロマンティシズムの最高傑作です。

主人公のシラノは、天下一の剣客にして優れた詩人ですが、自らの巨大な鼻に強いコンプレックスを抱いており、愛する従妹のロクサーヌに想いを告げることができません。そこで彼は、美男だけれども口下手な青年クリスチャンとロクサーヌの恋を成就させるため、恋文の代筆という形で自分の「魂の言葉」を彼女に届け続けます。

 

この物語の最大の魅力は、シラノの圧倒的な魅力にあります。豪快で毒舌、しかし内面は誰よりも繊細で純粋な彼は、読者の心を強く惹きつけます。辰野隆と鈴木信太郎の名訳は、フランス語の韻文が持つリズミカルな台詞回しや言葉遊びの軽快さを、見事な日本語の響きへと昇華させており、声に出して読みたくなるほどの美しさを持っています。

効率や打算が優先されがちな現代において、名誉も利益も手放して「純粋な愛」と「自らの矜持」だけを守り抜くシラノのやせ我慢は、私たちの胸に熱く迫ります。笑いと涙が交錯する劇的な展開の果て、ラストシーンでシラノが放つ誇りに満ちた言葉には、誰もが深い感銘を受けるはずです。

 

筆者 請川隆一