『絵のない絵本』

2025年02月06日

1. タイトル

『絵のない絵本』(原題:Billedbog uden Billeder

 

2. 出版社(書店名)

岩波書店(岩波文庫)

 

3. 発行年月日

19751117日(大畑末吉訳・改版の発行日。原書の初版発行は1839年)

 

4. 著者の略歴

ハンス・クリスチャン・アンデルセン(18051875 デンマークの童話作家、詩人。『みにくいアヒルの子』『人魚姫』『マッチ売りの少女』など、今日でも世界中で愛される数多くの童話を創作し、「童話の王様」と呼ばれています。貧しい靴職人の家に生まれ、14歳で俳優を志して首都コペンハーゲンへ出ますが挫折。その後、苦学の末に作家としての才能を開花させました。

5. 訳者

大畑 末吉(おおはた すえきち)

 

6. 【書評】

 「絵のない絵本」という矛盾した不思議なタイトルを持つ本作は、「私(貧しい若き絵描き)」の独白から幕を開けます。見知らぬ大都会の、狭くてみすぼらしい屋根裏部屋に引っ越してきた彼は、知り合いも一人おらず、窓の外に見えるのは無機質な煙突ばかり。深い孤独と寂しさに沈んでいました。

そんな彼の部屋の窓に、ある夜、故郷からの古い友人である「月」が優しい光を投げかけます。月は彼を慰めるために、「毎晩少しの間だけ君を訪ねて、私が空から見てきた世界中の景色を話してあげよう」と約束します。そして、「私の話すことをそのまま描きなさい。そうすれば、とても素晴らしい絵本ができるだろう」と告げるのです。読者はこの冒頭を通じて、これから語られる33夜の短い物語が、月が語り、若者が心のカンバスに描いた「言葉によるスケッチ」なのだと理解します。

 

【まとめ】 この美しくも切ない冒頭のエピソードを通して、アンデルセンが伝えたかったメッセージは主に以下の2点に集約されます。

「想像力」があれば、どんな場所からでも豊かな世界へ旅立てるということ 若者は狭くてみすぼらしい部屋に閉じ込められていますが、月の話(=言葉と想像力)を通して、インドのガンジス川からアフリカの砂漠、ヨーロッパの路地裏まで、世界中を旅することになります。物理的な貧しさや不自由さは、心の豊かさや想像力までは決して奪えないという賛歌が込められています。

深い「孤独」への優しい肯定と慰め アンデルセン自身も、貧しい田舎から大都会へ出てきて孤独と挫折を味わった経験を持ち、主人公の姿には彼自身が色濃く投影されています。誰も自分を知らない都会の片隅で寂しさに震える若者に、月(自然)は分け隔てなく優しい光を注ぎます。「あなたは決して一人ぼっちではない」という、孤独な人々へ向けた温かい励ましのメッセージが冒頭からあふれています。

 

この冒頭の美しい設定があるからこそ、その後に続く33夜のエピソードが、まるで一枚一枚の絵画のように読者の心に浮かび上がってきます。

 

筆者:請川隆一