書評 「シッダルタ」 ヘルマン・ヘッセ著

2025年08月15日

ヘルマン・ヘッセの小説『シッダールタ』は、1922年にドイツで発表された作品で、古代インドを舞台に主人公シッダールタの「悟り」を求める旅を描いています。ゴータマ=ブッダ(仏陀)=釈迦と同じ名を持ちますが、別の人物であり、歴史の本ではなく人生を考える物語です。

 

シッダールタはバラモンの家に生まれ、頭もよく修行にも熱心でしたが、父や師の教えだけでは真の悟りに届かないと感じます。父は息子を手放すのをためらいましたが、シッダールタの強い決意を前に、最後には静かに見送ります。こうしてシッダールタは家を出て、人生の旅を始めます。

 

彼は沙門として苦しい修行を行い、やがてゴータマ(仏陀)に出会います。しかし「悟りは人から授かるものではなく、自分の体験でしか得られない」と考え、ゴータマ(仏陀)にも従いません。

 

その後、享楽の世界に入り、遊女カマラとの愛や商人カマスワミとの取引を通じて富と快楽を味わう生活を送りますが、虚無感に襲われ全てを捨てます。

 

やがて川辺へとたどり着き、そこで川の流れに耳を傾け、生と死、喜びと悲しみのすべてが一つにつながっていることを感じ取り、渡し守として静かな生活に入ります。

 

やがて昔に別れた遊女カマラが身ごもった自分の息子シッダールタ(自分と同じ名前)に出会います。その息子は母カマラに甘やかされて育ったため、物心ついた頃には放蕩的でわがままになっていました。父であるシッダールタの言葉にも耳を貸さず、反発ばかりするようになってしまいます。

 

シッダールタは懸命に導こうとしますが、若き日の自分が父を振り切って旅立ったように、小さな時からの贅沢が身についてしまった息子もまた父のもとを逃げ出していくのです。


そのとき初めて、シッダールタは自分の父がどれほど寂しい思いをしていたかを深く理解し、親子の心の痛みと世代の繰り返しを悟ります。


なお、「シッダールタ」は、インド本国で注目され12のインドの方言に翻訳されているそうです。

 

新潮文庫 「シッダールタ」
著者 ヘルマン・ヘッセ
訳者 高橋 健二
昭和46年2月15日発行
令和3年8月25日 80刷より

 

筆者 請川隆一